2019年12月:「川広 肇」

 

今回のテーマはちょっと固いですが、太平洋戦争の風化が進む現在の日本の思想状況です。

今年の2月の事ですが、博物館を訪れて下さったお客様に博物館の入り口に掲げている「日の丸」の話しをしました。
その時私は、「日の丸は日本の軍国主義の象徴の旗なので余り好きではありませんが、日本人がアキラ氏を応援している事を世界中の人に知って貰うのに他に有効な手段がありませんので、日の丸を掲げています」と申しました。
すると大勢の中の一人の年配の女性のお客様から、「日の丸が嫌いとは聞き捨てならない、こういう場でそうした発言をするべきでは無い」とお叱りを受けました。
また別の女性のお客様は、「今どき、そんな事を言う人は日本にはもう居ない」と仰いました。
これらの発言に大変ショックを受けました。
若い人で無く、こうした年配の方までもがこんな事を言われるのかと。
日本の戦争の風化が進んでいる証拠です。

若い人は知らないかも知れませんが、先の大戦で召集令状を受け取った人々が兵隊として戦地に赴く時、家族や親戚、友人知人、近所の人たちが寄せ書きをしてくれた「日の丸(日章旗)」を身に纏い、軍歌と日の丸の小旗に見送られて己を鼓舞しながら出征しました。
そして、多くの人がそのまま帰らぬ人となりました。
また、嘘で塗り固められた大本営発表に騙されて、銃後を守る国民は、戦果が上がったと発表される度に「日の丸行進曲」を歌いながら、提灯行列や旗行列をしました。
国民に自己犠牲を強いて国家への忠誠を誓わせ、お国の為、天皇の為に戦争で死ぬ事は名誉なのだと言い聞かせる役割を果たしたのが軍人勅諭であり、教育勅語であり、靖国神社でした。
そして、戦争を遂行する為に、民心を鼓舞して一つに纏める役割を果たしたのが、他ならぬ「日の丸(日章旗)」だったのです。

私の父親は、幸いにも外地に出る前に終戦を迎えたので、死なずに済みました。
しかし、多くの親戚や知人が亡くなっているので、「日の丸(日章旗)」が大嫌いです。
私の父だけで無く、戦争体験者の多くは「日の丸」に対して良いイメージを持っていないと思います。
私は戦後生まれなので直接体験した訳ではありませんが、やはり、「日の丸」が戦争遂行に一役も二役も買ったのだと思うと、どうしても好きにはなれません。

日本も既に戦後74年を経過し、戦争世代がどんどん少なくなっていて、直接戦争の悲惨さを知っている人はほんの一握りになってしまいました。
ですから、我々の様な戦後世代がしっかり戦争体験を引き継いで、更に次の世代に繋いで行かなければなりません。
そうしないと、戦後の74年間は平和だった日本も、この先どうなるか分かりません。
しかし、現実はどうでしょう。
最初に言いました様に、年配の人の中にも戦争の風化が進んでいて、戦争が悪だと言う事がますます若い世代に伝わりにくくなっています。
それだけで無く、戦後の民主主義を否定する様な今の政権によって、戦前を彷彿とさせる歪んだ愛国主義、排他主義、国家主義が一部の国民の中に浸透し、戦争に対する反省が薄まりつつある気がして、戦慄を覚えます。

地雷博物館の館長であるアキラ氏は、自分が少年兵として地雷を埋め、多くの人を苦しめた反省から地雷博物館を造って、世界中の人に、そしてカンボジア人に地雷の怖さ、戦争の悲惨さを訴え続けています。
カンボジアの子供たちは、まだそれ程昔の事で無いにも関わらず、余り内戦の事実を知らないので、それを危惧して正しく内戦の事実を伝えなければならないと言う使命感で博物館を運営しています。
私がカンボジアでアキラ氏の手伝いをしているのは、勿論そうしたアキラ氏の平和の為の活動に感動し、アキラ氏を応援する為ではありますが、もう一つは、アキラ氏の悲惨な戦争体験を日本の方にも知って貰って、それによって日本も二度と戦争を起こしてはならないという認識を共有して貰いたい、そうした思いからです。

私が日本人に対して、とりわけ若者に対して言いたい事は一つだけです。
「日の丸」に対して、それを嫌いになってくれとは言いませんが、戦争に対しては絶対にノーと言って欲しいのです。
戦争を推し進める側の人間は、「これは飽く迄も自衛の為の戦争だ」と言い張るでしょう。
既に歴史の決着が付いている先の大戦すらも、「あれは侵略戦争では無くて、米英中蘭に追い詰められて止む無く起こした自衛戦争だった」と言う輩までいます。
そこには戦争が悪だと言う認識がありません。
戦争が起こって苦しめられるのは必ず一般庶民であり、戦争を遂行する側および加担する側の人間は苦しむどころか巨万の富を得るのです。
ですから、どの様な理由を付けられ様と、絶対に戦争を許してはなりません。

日本を離れてカンボジアに骨を埋める覚悟の私ですが、日本が大好きな故に、日本人が二度と悲惨な戦争の惨禍に巻き込まれる事が無い事を心の底から願っています。
それ故に、日本の若者にはしっかりと社会情勢に目を向けて貰って、少しでも戦争を始める兆候が出て来たなら、毅然とした態度でそれと闘って欲しいのです。
それが、日本の若者に対する私からのお願いです。

 

「アキラ地雷博物館・日本人応援団」
代表  川広 肇

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