そもそも私が、何らかの国際貢献活動をやろうと思うに至るきっかけとなりましたのが、今からちょうど11年前、2004年4月に起こりました「イラク日本人人質事件」です。この時日本中で、人質となった3人の若者に対するバッシングの嵐が吹き荒れました。私は、何としても彼らを擁護したいと思いましたが、自分が何もしていないのにいくら口で言っても全然説得力が無い、自分の言葉に重みを持たせるには、自らが国際貢献活動をしなければと考えたのです。
それから7年後の2011年3月に、カンボジアに渡りました。
今回の「呼び掛け人メッセージ」では、その「イラク日本人人質事件」について、新聞投稿用に書いた文章を掲載したいと思います。実際の投稿文章は、字数制限もある為かなり推敲を重ねて短くなり、また過激な表現は避けたものになっていますが、ここに掲載するに当たっては心からの叫びを受け取って頂きたく、原文をそのまま掲載致します。論調が乱暴で品位に欠ける部分もありますが、心からの率直な思いですのでお許し頂きたく存じます。少々長文ですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
「イラクの邦人誘拐人質事件」について
2004年4月28日
2004年4月8日、紛争中のイラクにおいて『サラヤ・ムジャヒディン』を名乗る武装集団による日本人誘拐人質事件が発生してからちょうど1週間目の15日に、被害者3人が無事解放されたとのニュースが流れた。固唾を飲んで状況を見守っていただけに我が事の様に嬉しかった。家族は連日テレビに出て、極度の疲労からフラフラになりながらも世論の力を借りて何とか国を動かそうと必死の思いで救出を訴えかけていた。それだけに無事救出の一報が流れた時には支援者と共に小躍りして喜んだ。17日には3人とは別に誘拐されていた残り2人の日本人も無事解放され、一応全てが良い形で解決したかに思えた。ところがである。今とんでもない事が起こっている。この被害者とその家族に対する政府と保守系マスコミ、そしてそれに同調する国民からのバッシングが異常な広がりをみせているのである。いわゆる「自己責任論」である。
事件が解決する前から、苦悩し疲労困ばいする家族の元には夥しい数のいやがらせの手紙やファクスが殺到し、インターネットの掲示板には人質本人に対する悪意に満ちた書き込みが溢れ、中には自作自演説まで流れ、それは事件解決後も続いていると言う。更に政府関係者は事件解決と同時に一斉に、家族と本人に対する誹謗中傷を開始したのである。
被害者5人、特に最初の3人は、危険地帯であるイラクからの再三に渡る国の退避勧告を無視してイラクに留まり、結果人質となって国に多大な費用負担と人的苦痛を負わせ国益を損ねたというものである。また家族は、息子や娘、兄弟がそうなったのは自業自得であるにも関わらずそれには目をつぶって恥知らずにも国に救出を訴え、犯人側の「3日以内にサマワに派遣した自衛隊を撤退させなければ人質3人を生きたまま焼き殺す」という要求に乗った形で国に自衛隊の撤退を訴え、拒否されるとヒステリックに国を攻め、小泉首相との面会を執拗に求めたが、その態度は不遜であり傲慢であるというものである。
5人は決して物見遊山や冒険心で危険なイラクに入ったのではない。唯一の女性高遠さんはボランティア活動家で、イラクのストリートチルドレンを救う為にイラクに渡った人であり、最年少の今井君は、うちの息子と同じ今春高校を卒業したばかりの18歳だが、NGOの活動家でありアメリカ軍によって使用されている劣化ウラン弾の残虐性を調査し絵本にしようと高遠さんと一緒にイラクに入った。郡山さんはフリーのカメラマンであり、アメリカ側からの一方的な報道では分からないイラクの本当の惨状を世界に訴える為にイラクに渡った人である。残る2人もそれぞれフリージャーナリストとNGOの活動家であり、5人とも危険は十分承知の上でそれでも尚自分を突き動かす使命感に燃え、私利私欲でなく真のヒューマニズムと自己犠牲の精神のもと国がやらない本当の人道支援と真実の報道を命懸けでやった人達である。こうした人がまだ日本にいる事に安堵する。特に今井君はまだ18歳である。
未成年者による凶悪な犯罪が増加の一途を辿り、つい先日も事もあろうに我が家の近くの瀬戸駅で、赤磐郡内の19歳の浪人生が瀬戸町在住の72歳のお年寄りと些細な事で口論となり、数回殴った挙句に線路に突き落とし意識不明の重態に陥らせたというショッキングなニュースが流れたばかりである。岡山駅でも土曜日の深夜や早朝には男女を問わず若い連中が大勢たむろし無駄な時間を過ごしているし、また電車に乗る時、列に並ばないで横から割り込む女子高生をしばしば目にする。そんな時代に高校を出たばかりの子がイラクの人々を救うため、戦争の悲惨さを世界に訴えるために立ち上がったのである。何と崇高で気高い行為であろう。尊敬されてしかるべきである。本人は元よりその様な子を育てた両親も称えられて当然である。それなのにこの国では全く逆の事が起こっている。
5人の被害者が揃ってイラクへの自衛隊派遣に反対した人達であり、今井君の母親が日本共産党員だということもあってか、小泉首相を始めとする政府の閣僚どもは「自己責任論」などと言う全く己に似つかわしくない、自分が失敗を犯しても決して責任など取ろうとしない事を棚に上げて、政府の方針に反対する者はまるで非国民とでも言わんばかりの非難の大合唱をし、それによって自衛隊派遣という全く大儀の無いアメリカ追従路線から国民の目をそらさせ、自分の為でなく他人の為に生きようとする彼らと全く対極にいるすばらしい人達の善意の行動の芽を摘もうとしている。小泉、福田、平沼、麻生、中川、安倍、そして石原慎太郎、公明党の冬柴等々・・・・。
彼らの中には「救出には莫大な国民の税金が使われたのであり、こうした行為を今後防ぐためにも掛かった費用の一部を被害者に負担させれば良い」とまで言う者もいる。自分たちが官房機密費など税金の無駄遣いを平気でやっているくせに何をかいわんやである。自分たちのこうした軽薄な発言が、次世代の人々のボランティア活動や善意の行動への芽生えに水を差し、世の中をますます悪くする事に思いが至らないのか。政治家でなく本当に品位の無い、志の低い政治屋どもである。
今回の救出劇で政府の取った行動がどれだけ有効であったかは大いに疑問であり、本当の功労者は現地のスンニ派イスラム聖職者協会なのであるがそれはともかく、国家が自国民を救うのは当たり前でありそのために我々は税金を払っているのである。そもそも自衛隊を派遣したからこうした事態が発生したのであり、それを棚に上げて恩着せがましい事を言うなと言いたい。テレビのワイドショーで司会の大和田獏が「救出に国民の税金が20億円使われたと言っても1人当たりにすればたった20円です。国民の命は重いのです」と言ったが、全くその通りである。
政府の連中がこうした発言をするのは政権維持にのみ汲々とする愚かさ故に、腹は立つけれどもある意味予想の範囲内ではあるが、一般の国民の半数がこんな政府を支持し、崇高な意志を持った被害者とその家族に対して情け容赦のないバッシングを行おうとは本当にショックである。マスコミもしかりで「週刊新潮」や「文春」は被害者達のプライバシーを暴き立て、「読売新聞」や「サンケイ新聞」は相当辛辣な自己責任論を展開している。
今井君や高遠さんらのボランティア活動家に対してだけでなく自分たちの身内のフリージャーナリストに対してまで危険地帯に入るべきでないと言う。自分で責任の取れない危険はそれが何の目的であろうと冒すなと言う。それなら新聞紙上で、あるジャーナリストが発言していたが「戦場で地雷を踏んで死んだロバート・キャパを非難できるのか」と言う主張をどう受け止めるのか。植村直巳などの冒険家が死んだのは単なる自業自得で価値の無い事なのか。危険を冒すな、国に迷惑を掛けるなと言うなら未知への挑戦は出来ないし、人類の進歩は止まってしまうだろう。真実も伝わってこない。
テレビに出る政治評論家は政府のお先棒を担ぐし、あのつるっぱげの三宅久之など高遠さんのイラクでのボランティア活動に対して「何もわざわざ外国まで行かなくても、日本国内に困っている人はいくらでもいるのだからそうした人を救えばいい」と言っていた。本当にアホかと言いたい。何もしない奴に限ってそういうことを言う。それなら国際貢献などと言う言葉を使うな。元広島テレビのアナウンサーで自民党参議院議員の柏村武昭は『反日的分子』発言までして人質を非難した。全く見識を疑う。こんなのを国会議員にするな。
こうした国内の論調に対して外国メディアは一様に異を唱えている。あのパウエル国務長官でさえ人質とその家族に一定の理解を示している。そうした事を考えるとこの国の民主主義はいかにもお粗末であり、本当に情けない。そんな中であの『ゴーマニズム宣言』の小林よしのりが政府の姿勢を責めていたのは意外であった。また作曲家で作家のなかにし礼がコメンテーターとして出演している昼のテレビ番組『ワイドスクランブル』(司会;大和田獏、大下容子)の中で実に見識高く、胸を打つ意見を述べていたのが印象的であったが・・・・。
また、家族が政府に対して「見捨てるんですか」と声を荒げた事を咎める意見があるが、小泉、福田は自衛隊を3日以内に撤退させなければ人質を殺すとの犯人側の要求に対して、まるで人質の命など歯牙にも掛けないとばかりに即座に「撤退はしない。テロには屈しない」と発表した。これに対して家族は命の重みを訴えたのであり、これが非難される事なのか。家族として必死になるのは当然で、冷静でいられるはずがない。こんな状況で家族が何も発言しなければ、反対に「何と冷たいんだ」と非難されるだろう。犯人側は人質解放の条件として日本国政府に対して自衛隊撤退の要求を突きつけているのだから政府に頼むしか方法が無いではないか。
今、国民の内の半数がイラクへの自衛隊派遣を支持し、そうした連中が今回被害者となった5人とその家族に対するバッシングに加担している、国に対して物が言えない状況を作り出している、まるで戦争前夜の様に・・・。老いも若きも政府のプロパガンダに簡単に乗ってしまう国民性、国に迷惑を掛けてはいけない、国に逆らってはいけないと言った民主主義の根幹を揺るがす悪しき考え方、国家を個人の上に置く考え方がまたぞろ幅を効かせてきている。全くもって憂慮すべき事態である。
世の中では老人を騙して平気で金を巻き上げるオレオレ詐欺や悪質な訪問販売が横行し、自分さえ良ければ他人はどうなっても良いとの考え方が浸透しつつあるが、今回の高遠さんや今井君への攻撃がそれを益々加速させるに違いない。ホームレスの人に対する暴行事件や朝鮮学校の生徒へのいやがらせ事件、学校でのいじめなど弱い立場の人への容赦ない攻撃、これらと今回の事態は同根でありこれが今の日本の現状である。この先更に憲法が改悪され、教育基本法には愛国心が盛り込まれようとしている。一体この国の行く末はどうなるのか。こんな社会の中でうちの息子達は生きていかなければならないのかと思うと暗澹たる気持ちになる。
こんな中4月26日、ネオコンに彩られたブッシュべったりの小泉自公連立政権が、異常な支持率に支えられながら発足丸3年を迎えた。憲法をないがしろにしてイラク特措法を成立させ、挙句に非戦闘地域への人道復興支援という欺瞞に満ちた名目のもと自衛隊を海外の紛争地域に派兵させた戦後最悪の内閣が・・・。言い様の無い絶望感と国民に対する不信感ばかりが心を支配している。